
Case.25製品紹介
糸張力の乱れはガイド摩耗にあり!実験で明らかになった「ワッシャーテンサー」活用の最適解とは?
織物を製造する現場において、経糸を均一に揃えながらビームへと正確に巻き取っていくためには、糸に一定の張力(テンション)をかけることが欠かせません。その役割を担うのが、ワッシャーテンサーです。
クリールに設置されたボビンごとに必ず一つ取り付けられ、糸が絡むことなく安定して巻き取られるための中継部品として機能します。織機や関連設備における生産品質を支える、極めて重要な存在といえるでしょう。
湯浅糸道工業のワッシャーテンサーは、50年以上にわたり仕様を大きく変えることなく、お客様の現場で使われ続けています。シンプルな構造ながら、経糸を安定してビームに巻き取らせるために欠かせない部品として、その価値を発揮し続けています。
見過ごされがちな工程が、繊維製品の品質を左右する
クリールから糸を巻き取り、供給していく工程は、あらゆる織物や布製品の製造において、最初に行われる基本的なプロセスです。しかし、この段階で糸に傷みが生じたり、巻き取りの状態にムラが出たりすると、その影響は最終製品の品質に直結してしまいます。
ところが、現場にとってはあまりに当たり前の工程であるがゆえに、糸への細かなダメージやガイド部品の摩耗状態などは見過ごされがちです。実際に私たち湯浅糸道工業は、多くの現場でそのような状況を目にしてきました。さらにクリールの数が膨大であることから、ワッシャーテンサーの交換は後回しになりやすいのも実情です。
加えて、現在は世代交代の時期でもあり、この工程の重要性や点検・交換の知識が次の世代に十分伝わらなければ、現場全体として製品品質を守ることが難しくなってしまいます。だからこそ今回のコンテンツを通じて、ワッシャーテンサーの機能や用途、そして定期的な交換の大切さを改めて知っていただきたいと考えています。
ワッシャーテンサーの具体的な機能
ワッシャーテンサーが果たす機能とは、経糸に一定のテンション(張力)を与え、安定してビームへと巻き取らせることにあります。そのテンションをコントロールする仕組みは大きく2つに分けられます。
①糸を屈曲させてテンションを発生させる
テンサー装置内で糸を屈曲させることで、走行中の糸にテンションがかかります。内部の回転部(ダイヤル)を調整することで、糸の抱き込み角度を変えられ、これによってテンションの強弱を細かくコントロールすることが可能です。
②ワッシャーで糸を挟み、重みでテンションを与える
上下の金属製ワッシャーで糸を挟み込むことで、ワッシャーの重みで糸の暴れを抑えながら適度なテンションを与えます。ワッシャーの重さはグラム単位で変更でき、糸の太さや種類に合わせて最適なテンションを与えられます。
また極細糸の場合は、表面をアルマイト処理した軽量なアルミ製ワッシャーも採用でき、過度な負荷を避けながら安定した走行を可能にしています。
さらに、糸と接触する上皿部分は、糸とともに回転する仕組みになっています。これは両者の摩擦を最小限に抑えて、糸へのダメージを軽減するための構造です。
ワッシャーテンサーの種類
ワッシャーテンサーに使用されるワッシャーは、最も一般的なものとして「硬質クロムめっきの梨地仕上げ」が挙げられます。湯浅糸道工業ではこの標準品に加え、ノーマルの鏡面仕上げ、平面研磨品の梨地仕上げ、平面研磨品の鏡面仕上げ、さらにナイロンブッシュ品など、多様なラインナップを取り揃えています。
用途や糸の種類に応じて幅広い選択肢をご用意している点こそが、弊社の大きな強みです。
平面研磨品とは
金属製のワッシャーは、基本的に金属板をプレスで打ち抜いて製造されます。そのため、どれほど精密に加工しても、わずかな曲がりやゆがみが生じてしまいます。上下のワッシャーを組み合わせた際にこうしたわずかなゆがみがあると、部分的に糸がワッシャーに接触せず、テンションのばらつきにつながる場合があります。
太い糸であれば多少のゆがみがあっても問題はなく、上下の皿でしっかり押さえ込むことが可能です。しかし極細糸になると、わずかな浮きや隙間でも、安定したテンションを与えられなくなります。
そこで有効なのが「平面研磨品」です。めっきを施す前にラップ盤で精度高く研削することで、ワッシャー表面の平面度が飛躍的に向上。その上でめっきを行うため、糸との安定した接触を実現できます。この平面研磨品は、特に極細糸を扱う現場では欠かせない存在となっています。
ガラス繊維に用いられる鏡面仕上げ
鏡面仕上げのワッシャーは、主にガラス繊維の糸に使用されます。鏡面仕上げは表面に凹凸がなく、非常に滑らかであるため、繊細なガラス繊維にも優しく、糸を傷めずにテンションをかけることができます。
こうした特性から鏡面仕上げは、ガラス繊維を扱う現場に適した仕様となっています。
ナイロンブッシュ仕様
通常の金属製ワッシャーは、回転する際に中心のセラミック軸とワッシャー内径部分がこすれ合い、硬度の高いセラミックによってワッシャー側が摩耗していきます。この摩耗により内径が楕円状に進行するため、ワッシャーの回転精度が低下したり、削れた鉄粉が糸に付着したり、テンサー内部に入り込んで機能を鈍らせてしまうこともあります。
ワッシャーは消耗品である、という点はここに起因しています。
この課題に対する対策として開発されたのが、内径部分に摺動性の高いナイロンブッシュを組み込んだワッシャーです。セラミック軸との接触部がナイロンになることで摩耗が大幅に抑えられ、金属部分への影響もほとんどありません。その結果、製品寿命は格段に向上します。
コストは若干上がりますが、特に極細糸を扱うようなシビアな条件の現場では、安定したテンションを維持できる点から、非常に重宝してくださっているお客様もいらっしゃいます。
このように、ワッシャーテンサーに使用されるワッシャーには、用途や糸の種類に応じて多様な仕様が用意されています。平面研磨による高精度な接触、ガラス繊維に適した鏡面仕上げ、摩耗を抑えるナイロンブッシュ仕様など、それぞれの特性を活かすことで、繊細な糸から太番手の糸まで幅広く対応することが可能です。
そして、ワッシャーテンサーが長年選ばれてきた理由の一つが、その“管理のしやすさ”にあります。特に、ワッシャーの重さを調整することで、性質の異なる糸や太さの違う糸にも柔軟に対応できる点は大きな特長です。
お客様の現場ニーズは千差万別ですが、ワッシャー部分をカスタムするだけで多種多様な糸条件に合わせられるため、幅広い製品群に対応できるのです。
カスタム性と拡張性のあるワッシャーテンサー
ワッシャーテンサーは、基本仕様だけでなく、お客様の現場条件に応じて多様なカスタマイズや別部品との組み合わせが可能です。こうした柔軟性は、織物製造の安定性や作業効率をさらに高めてくれます。
クリール側に設置される樹脂製ガード
クリールのボビンから糸を高速で走らせる場合、糸が大きくたわみ、暴れながらテンサーに入ってくることがあります。そのままではテンサー内部に糸が引っかかり、正常な走行を妨げる恐れがあります。
そこで、テンサーの取り付け側に透明の樹脂製ガードを設置し、糸が不用意に侵入しないようガードする仕組みを採用しています。この樹脂製ガードは、サイズなどを現場条件に合わせて柔軟に設計できるため、安定した糸の供給を支えるカスタム要素となっています。
アンチスナールテンサーとのドッキング仕様
織機の運転を停止した際、糸がたわんでカール状(スナール)になり、再稼働時にそのまま走行し、糸が絡んでしまうトラブルは多くの現場で見られます。このスナールを解消するのが「アンチスナールテンサー」で、糸をまっすぐに引き延ばしてから走行させることで、絡みや品質不良を防ぎます。
> スナールを防いで操業性を向上させる!製品品位を保つYUASAのアンチスナールテンサーとは?
湯浅糸道工業では、このアンチスナールテンサーをワッシャーテンサーに組み合わせた製品も提供しています。テンサー内部に入る前に糸を整え、正しくテンションをかけられるため、特定のお客様より、スナール対策として高い評価をいただいております。
このように、樹脂製ガードの追加やアンチスナールテンサーとの組み合わせなど、現場の課題に合わせて細やかなカスタムが可能であることも、湯浅糸道工業のワッシャーテンサーならではの強みです。お客様ごとに異なる条件に的確に応えられる柔軟さが、長年にわたり多くの現場で信頼をいただいている理由といえるでしょう。
摩耗による張力の乱れを数値で実証した実験
これまでワッシャーテンサーの機能や構造、種類についてご紹介してきましたが、実際に摩耗が糸へどのような影響を与えるのかは、現場でも見過ごされがちなポイントです。
そこで湯浅糸道工業では、摩耗状態を再現したガイドと通常状態のガイドを比較し、糸にかかる張力(テンション)の違いを測定する実験を行いました。その結果は、現場での交換や点検の重要性を裏付ける非常に示唆的なものでした。
実験①:梨地仕上げと摩耗状態のワッシャーを比較
今回の実験では、通常使用される梨地仕上げのワッシャーと、長期間の使用によって摩耗した状態を再現した「鏡面仕上げ」を施したワッシャーとを比較しました。摩耗が糸張力にどのような影響を与えるのかを明確にすることが狙いです。
また、比較実験に使用した糸の材質と巻き取りの条件は、
・PET 84dtex 36f
・無撚糸
・巻き取り速度:250m/min
となります。
実験方法としては、それぞれのワッシャーを組み込んだテンサーを用意し、糸の屈曲角度(抱き角)を「5」「10」「15」の3パターンに変化させて測定を行いました。
その結果、最も弱い抱き角「5」では、
梨地仕上げでは、6.98gfであったのに対し、
鏡面仕上げでは 、9.15gfと明確に張力が上昇していました。
さらに、抱き角を「10」にすると
梨地:13.09gf、鏡面:16.89gf
そして「15」では
梨地:15.72gf、鏡面:19.63gf
となり、抱き角が大きくなるほど両者の差は広がる結果が得られました。
この実験から、摩耗したワッシャーを使用すると、意図せず糸に過大な張力が加わってしまうことが明らかになりました。
実験②:パイプガイド摩耗による影響度合いの高さ(検証動画あり)
次に行ったのは、テンサー内で糸を支えるパイプガイドの摩耗が、張力にどの程度影響を及ぼすのかを調べる実験です。
比較のため、ノーマル仕上げのパイプガイドを取り付けたテンサーと、鏡面仕上げ(摩耗状態)のパイプガイドを取り付けたテンサーをそれぞれ用意しました。なお、前後ガイドは両者とも鏡面仕上げ(摩耗状態)、ワッシャーは両者とも梨地仕上げ(通常状態)とし、パイプガイドの影響に焦点を絞りました。
その結果は非常に顕著でした。
抱き角度「5」では
ノーマル:9.68gf、鏡面:11.83gf
と摩耗したパイプガイドの方が高い張力を示しました。
ところが抱き角度を「10」にすると、
ノーマル:15.81gf、鏡面:43.07gf、
さらに「15」では
ノーマル:16.65gf、鏡面:68.54gf
と、圧倒的な差が確認されました。抱き角が大きくなるにつれ、摩耗ガイドによる張力の急激な上昇が記録されたのです。
加えて、複数回の試験では数値のばらつきも大きく、安定した張力が得られないことが分かりました。特に摩耗状態(鏡面仕上げ)のパイプガイドでは、抱き角度「10」で20.5~66.5gf、抱き角度「15」では33.5~114.5gfという大きな幅が記録されており、極端なばらつきの数値差が確認されました。
さらに、その際にはテンサーを通過した糸に不用意なブレが発生する様子も観察されました。
つまり摩耗したパイプガイドでは、意図せず張力が高まるだけでなく、張力そのものが不安定になり、さらに糸の走行に大きな揺れが生じて、制御不能な状態になることが明らかになりました。
今回の試験を通じて分かったのは、ガイドの中でもパイプガイドが最も糸への張力やコントロールに悪影響を及ぼす部品であるという点です。これは、テンサーの回転部(ダイヤル)を回してテンションをコントロールする際に、糸が屈曲して強くテンションが集中する部位であるためと考えられます。そのため、ガイド類の中でも特にパイプガイドは重要な役割を担っていると言えます。
いかに摩耗したままのガイドを使い続けることが糸製品に悪影響を与えるか、この実験は強く示しています。だからこそ、すべてのガイドを一度に交換するのが難しい場合でも、パイプガイドだけでも定期的に交換することで、コストを抑えつつ、安定した品質を維持する運用が可能になります。
コスト効率と品質維持を両立するYUASAの強み
今回の実験結果からも明らかなように、ガイド摩耗は糸張力や安定性に大きな影響を及ぼし、製品品質を左右する要因となります。だからこそ、現場では点検や交換の判断が極めて重要です。
その点、YUASAブランドの製品は、パーツごとのカスタマイズ性や交換の容易さを備えており、製品本体を丸ごと交換するのではなく、部分的な交換が可能です。これによりコストを抑えつつ、安定した品質の維持が実現できます。
ワッシャーテンサーに限らず、湯浅糸道工業の製品は、お客様の現場環境に最適な仕様を柔軟に提供できることが大きな特長です。
さらに、普段から営業スタッフが現場に足を運び、直接要望や課題を収集しているため、即座に駆け付け対応できるサポート体制も整っています。また、今回のような実験データの取得環境も社内に備えており、現場で発生する不具合の原因究明や、最適な製品提案のための確かなエビデンスを提示することができます。
私たち湯浅糸道工業株式会社は、こうした強みを生かし、糸製品に携わるすべての方々の課題解決に向けて、会社一丸となって取り組む姿勢こそが「YUASAブランド」なのだと自負しています。
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